エンタープライズアプリケーション分野が技術的先進性を失った10年を振り返る

今度の Wagby Developer Day 2015 基調講演ネタの一部を先行してブログに書きました。

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1995年から2005年まで、エンタープライズアプリケーション分野がITの進む方向性を示していました。具体的にはマイクロソフト社の Windows と .NET、そしてサン・マイクロシステムズ社の Java という二大巨頭にオラクル社や IBM 社が関わり、これに XML や SOA という要素技術が組み合わさって大変な勢いがありました。同じ時期、ERP の台頭や、オープンソースを中心とした軽量 Java の提案なども重なり、どれを選ぶのがよいかという勉強会が盛んに開催されていました。

私見では、AWS の登場と、その後の iPhone の登場で潮目が変わったように感じます。

これらの新技術をエンタープライズアプリケーション分野が積極的に活用することはありませんでした。グループウェアをはじめとする情報系やCRMという限定された分野では採用されたものの、現行システムをクラウドで動作するようにつくりなおし、業務端末がスマートフォンに変わったとは言い難い状況です。

一方、誰もがスマートフォンを持つようになったため、スマートフォンを経由して企業と顧客が直接、つながることが売上に直結することがわかってきました。これまでの EC サイトとは異なり、SNS やゲーム、専用アプリなどをとおして関わっていくアイデアが登場します。これらが ”System of Engagement” という分野として認知されると、企業の投資意欲が高まりました。従来のエンタープライズアプリケーションは “System of Record” ということで区分されます。

企業は SoR よりも SoE へ投資する方が「すぐに結果に結びつく」と考えました。しかも他社と異なる仕組みであるほど成功率が上がるため、新技術への投資が盛んになります。勢い、SoR から SoE へ転職する技術者が増加します。負のスパイラルで、SoR は魅力がないとみなされ、ブラック的なイメージさえも広がってしまいました。

Javaも.NETも、SoE へは乗り遅れてしまったと言えるでしょう。その後、オラクル社をスポンサーとして Java は勢いを取り戻しつつあり、またマイクロソフト社も Windows 10 で攻勢をかけますが、目を引く技術的キーワードは SoE から発信されるという構図は変わっていないように見えます。昨今のキーワードであるビッグデータ、IoT、人工知能いずれも SoE で経験が積まれています。SoR はずいぶんと地味になりました。こうして振り返ると、先進的というブランドイメージを失って、ほぼ10年になるのだなぁと感慨深いものがあります。

(補足:Java 界では Java 8 や Java EE 5/6/7 の登場、そして OSS でも CloudFoundry の登場といった発展は続いています。コミュニティ内では盛り上がりますが、エンタープライズ系で広く積極導入されていない、という視点から、上の表には書き加えませんでした。)

そして IT 部門自体の発言力も失われていった

これに呼応するように、今は企業の IT 部門がお荷物と言わんばかりの主張も聞かれるようになりました。エンタープライズアプリケーションは停止したら大目玉をくらいますが、安定稼働するのが当たり前で褒められることはありません。さらに経営陣からは金食い虫と思われてしまい、肩身が狭い思いをしています。IT 部門の視点に立てば、

  • 経営者がIT投資の何たるかをわかっていない!
  • PC環境のバージョンアップ対応だけで、予算がいっぱい!
  • 既存システムがスパゲティ状態で、手を入れるのが難しい!

と嘆きたくなります。しかし厳しいようですが、振り返ってみれば難題に手をつけず、延命策を取り続けた結果、呆れられたという面もあるのではないかと思うところです。

経営者にしてみれば、あといくら投資すれば、どういう効果が見込めるということが明確にならない以上、追加投資には慎重にならざるをえません。その上、Windwos OS のバージョンアップや、セキュリティ対策など外的要因によって追加投資をしても、それで売上が増えるわけではないということに辟易しています。10年前なら仕方なかったとはいえ、2015年時点でも IE のバージョンアップで動作しなくなったシステムの改修を行っているというのであれば、果てのない延命策がまだ続いているという闇を感じさせます。

私自身は、オフショア開発による一時的な開発費の削減や、仮想環境を使った旧システムの維持、レガシーマイグレーションといったソースコード変換などはすべて短期的延命策であり、「レガシーと決別し、新しい技術体系を使って、自社主導での内製開発にチャレンジする」ことが(困難な道であっても)王道、という思いがありました。BSIAなどで、そのような取り組みを行っている企業が少なくないことを知り、また超高速開発というキーワードの登場で、そのような思いを持った方がツールを開発されていると知ったのは嬉しい出来事でした。しかし、その動きはまだまだ本流とはなっていません。

SoR の復権はある。しかしこれまでと方向は異なる。

とはいえ SoR をやめるわけにはいきません。SoE がますます盛り上がることに異論はありませんが、それを裏で支えるのは SoR です。ただし、これまでの延命を続けるかぎり、SoR 関係者は企業内で冷遇される構図は変わらないでしょう。復権の鍵は、経営者が十分に満足するほどの「コスト削減と開発スピードの向上」にあります。しかし、それはこれまでの開発方式では得られないのではないか、というのが私の主張です。

では経営者が SoR を再評価するために現場が着手すべき最初の一歩は何か。私自身は、以前からずっと重要と言われながら避けられてきた(感のある)、データモデリングが出発点と位置付けています。「データモデラーを *社内で* 育成する」ことが SoR を次のステージに上げるための一丁目一番地と信じて疑いません。

これが大変だとわかっているが故に、避けられてきたわけですが、これを避け続けた結果、どうしようもない状態に陥ったわけです。
困難だが王道をいくのが結果的には最善の道です。SoE に比較すると派手さはありませんが、それでも SoR での活躍経験が長い方ほど、この重要性は理解されていますので、心配はしていません。あとはきっかけの問題です。

超高速開発ツールの登場は、そのきっかけになりえます。データモデルからアプリケーションの自動生成へとつなげることで、経営者も現場も、その効果を実感できます。Wagby Developer Day 2015 では、その効果も、現状の課題もすべてユーザ様にお話しいただける予定です。

以上、SoRが技術的な先進性をSoEに譲ってから10年という論調で書きましたが、実はこの10年は、Wagbyを鍛え続けてきた期間と重なります。

プログラム自動生成技術に関する見方も変わり、今では無視できないツールとして認知されてきました。Wagbyそのものは、最新技術とは言えません。むしろ枯れた技術がさらにいっそう枯れて、コモディティ化していったものです。コモディティ化 = プログラムの書き方のパターン化ができてはじめて、自動生成可能となるためです。

しかし SoR がコモディティ化することこそが、企業経営者が求める有り様だということがわかりました。そしてコモディティ化した中から、「自動生成SI」という新しい芽が生まれようとしています。

参考 オルタナティブSI - 伝統的なSIはもう限界:ITpro

Wagbyに関わった方は、この変化を実感できる立場にあり、非常に面白いと感じていらっしゃいます。SoR はこのように技術的観点からはいったん地味化しますが、少数精鋭チームで大規模システム構築ができるという新しい魅力を備えるようになります。次のステップとして、今度は SoE で培われた要素技術が、SoR に取り込まれることになるでしょう。そう考えると Wagby はまだまだ改善テーマがあり、面白くなると感じています。

基調講演ではそのあたりを軸に、Wagbyの展開をお話ししたいと思います。