"その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない"

この言葉は「赤の女王仮説」として知られているようです。実は最近知ったのですが、15年かけて当社の立ち位置を受託ビジネスからライセンスビジネスへ転換した今、あぁ、そのとおりだなぁと実感しています。

当初は(受託と、パッケージ開発を)両立させたいという気持ちがありましたが、途中で断念しました。その理由は、一つのパッケージソフトを成功させるために、私のエネルギーをすべて投入する必要があると気づいたためです。

創業から5年の間に、受託ビジネスで運転資金をつくりながら、都合5つものパッケージ製品を市場に投入しました。いずれも商標を登録したり、Webサイトを用意してパンフレットを作成したりと、時間も手間もかけたものです。正直に言えば、どれか一つでも当たればラッキー、という甘い気持ちがありました。そして当然の結果なのですが、どれもうまくいきませんでした。

製品を開発している最中は、"これは良いアイデアで、他に類似製品はない。"、と気持ちも昂ぶっています。しかしほどなくして、どのような製品であっても、必ず競合製品が存在する、ということを認識しました。それらの競合製品と真剣勝負という形で営業活動を進める中で、お客様に選んでもらうためには、機能や価格優位性の前に、その製品にかけるトップの(私の)情熱が必要だということに気づかされました。その情熱を複数に分散すれば、二兎を追う者は一兎をも得ず、ということわざのとおりとなってしまいます。

いつの頃からか、受託事業でさえも私の中では重荷になっていきました。納品前には何事にもまして優先せざるをえないのですが、そのときは私の注意がそこに向いてしまうため、パッケージ開発部隊も投入して事態を収束させようとします。結果として、パッケージ開発の進捗が滞ります。開発スタッフも混乱します。こういうやり方は、なにもかも中途半端になってしまうと何度も反省しました。そして"目先の売上が減っても開発に集中する覚悟をもてるかどうか。”というぎりぎりの判断を行いました。

今、ようやくパッケージ専業ベンダーとして会社を再構築したものの、まったく安心できません。現在のお客様の満足度を向上させるための品質改善の取り組みはもちろん、新技術への対応や、マーケティング力の向上など、課題はいくらでもあります。できることはすべてやる、という気持ちで臨んでようやく、今の立ち位置を維持できるかどうか、ということでしょう。

これを読んだ方は「なんと、しんどいことを」と感じられるかもしれません。しかし私は「全力で走ってよい」という環境が与えられていること自体が、この上なく幸せなことだと考えています。せっかくのエネルギーを持て余して人生を過ごすより、今、やっている感覚があって、そしてやりきるための環境をいただけていることに感謝しています。その結果として「その場にとどまる = 会社が存続できる」なら、申し分ありません。目の前の課題を一つずつ着実にクリアすることに全力を尽くす。これを継続していくことで、結果的に私の、そしてスタッフ一同の人生にプラスになることを願っています。