ソフトバンク様の講演で実感した、エンドユーザとベンダーの “距離感” について

長く仕事を続けていると、まれにご褒美のような場面に遭遇することがあります。
今回の日経コンピュータ主催セミナー「超高速開発&エンタープライズアジャイル成功の方程式」は、当社にとって青天の霹靂といってよいものでした。

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http://ac.nikkeibp.co.jp/nc/ssd_ea2016_05/


400名は埋まったであろう満席の会場で、池羽様の基調講演「ソフトバンクが超高速開発を推進する理由」が始まりました。丁寧に自社の取り組みをお話しされ、何重もの検証ののち、Wagbyでさまざまな開発を進めていく計画に至った(そして現在、実践中である)ということをご紹介いただけたのです。Wagbyを一押ししていただけたという内容で、感無量でした。製品ベンダーにとって、これほど嬉しいことはありません。このために日々、開発に勤しんでいるといっても過言ではありません。

誤解のないように付記しますと、ソフトバンク様は Wagby べったりではありません。他にもさまざまなツールをご利用ですし、ベンダーとの距離感も適切と心得ています。それでも、このような場で Wagby を評価していると明言されることがどれほど大きな意味をもつことか。それを存じ上げた上でのご発表ですので、感謝の念も大きいです。同社の成功のために、さらに頑張ろうという気持ちでいっぱいです。

ベンダーを味方にすることと、ロックインを避けることは矛盾しない

エンドユーザ (IT部門) にとって、ベンダーとの距離感を適切に保つという方針そのものはわかります。しかし、距離感とは具体的に何か、といったテーマについては、まだ深堀りされていないのではないでしょうか。今回のソフトバンク様の対応は見事だと感じましたが、同時に、距離感について考察する機会もいただけました。

ビジネスの基本はもちろん契約にあります。発注側であるエンドユーザの興味は「1. 規定の金額で、契約内容を満たす」「2. 同じ契約内容を満たせるなら、より安価な金額で実現できるように交渉する」でしょうが、これに加え「3. 金額以上の効果を出せるようにする」ということもあるでしょう。ビジネスとは、お客様がやりたいことを実現するということです。そこでお客様がやりたいこと イコール 受注側(ベンダー)にとってもやりたいこと、というようにベクトルを合わせることができれば、契約金額以上の効果を望むための土台ができます。つまり、お客様がやりたい方向に、うまくベンダーを巻き込んでいくこともまた重要なテーマです。

しかし多くの発注側で、このような効果を生み出すためのノウハウは体系化されていないのではないでしょうか。それどころか、むしろ契約金額を下げようとする力が強すぎでベンダーのやる気を削いでしまい、結果として契約内容を満たすこと自体を怪しくするという本末転倒な状態になってしまっては元も子もありません。

話を戻しますと、私はお金をかけずにベンダーのやる気を引き出す良策として「Wagbyを使っています」と社内外に公言するのがもっとも効果が高いと考えています。そうなれば私たちも、もちろん後には引けません。最後までおつき合いするという気持ちになりますし、失敗は許されないという覚悟も生じます。もちろん、プロジェクトが最後まで成功したご褒美として採用実績に名前を出すことを認めるという考え方もわかります。それだけにベンダーにとっては「これから本格的に Wagby を使っていきます」と発表されることは、大いに意気が上がります。こういう巻き込み方もあるのだ、ということです。

私見ですが、これはロックインではありません。ロックインというのは、関係性を解消したいと思ってもできないというがんじがらめの状態を指す、と考えています。しかし現状、ソフトバンク様と私たちベンダーの関係は、むしろ情報公開の透明性を確保することで、解消しようと思えばいつでも可能という緊張感を維持しながら、ベンダーの力を十二分に発揮できる機会をつくっています。開示することでロックインを防ぐという、このアプローチは両社それぞれにメリットがある、興味深い関係性です。

もちろん、このような関係こそがロックインだと考える方もいらっしゃることでしょう。むしろ両社の契約関係を秘密にし、契約によって(相手の意思は切り離して、ドライに)成果を得ることがベンダーコントロールだという方針です。仮にそれが一般的だというなら、なおさら「普通でない」関係を築こうとする発注側が新鮮に見える、ということもまた事実です。そして発注者が契約金額以上の成果を出したいと考えるなら、普通でない関係を築くことを躊躇する理由はないはずです。

ところで発注側であるエンドユーザも、さらに消費者に向かっては、同じような希望(考え方)を抱いています。常に我が社の製品を選んでもらうためには、他社との差別化を図らなければならない、と。ネット時代になり、SNS で一瞬で情報が共有できるようになったとき、契約で縛るという考え方から、信頼関係でつながることに価値がある、という考え方へ変わりつつあります。それは企業と個人という枠組みを超えて、企業同士のつながりにも影響してきます。社会全体が、ドライな関係性からウェットな関係性を重視しつつある過程にあるのではないか、ということです。

私たちが考える、望ましい関係性

私自身はせっかく自分で会社を経営できる立場にあるわけですから、仕事は大いに楽しんでいきたいと思います。それは好きなことだけをやる、という意味ではありません。やるべきことをしっかりやると同時に、お金だけの関係性を超えた、お客様との信頼関係をどれだけ構築できるかというテーマにチャレンジしたいのです。別の言葉で表現すれば、「私たちはお客様との信頼関係をつくっています。その手段として、Wagbyという製品をつくっています。」となります。

幸いにも当社は、今回ご発表いただいたソフトバンク様をはじめ、大変多くのお客様にご贔屓にしていただけています。年一回のお祭りである Wagby Developer Day で直接、開発者とお話しできる機会はもとより、代理店の方々を通して密なコミュニケーションをとることで、顔のみえる関係を築いているという手応えを日々、実感しています。私たちは規模こそ10名以下の会社ですが、20社の販売代理店を通して、300社以上の企業と Wagby でつながっていけるという類まれな立ち位置にいます。この関係性をこれからも大切にしていこう、と改めて実感した一日でした。