量から質へ - 沖縄の産業政策が変わると何が起きるのか

私からみた沖縄県の産業政策は、県外企業の誘致による地元雇用の創出を目指すものでした。観光と IT はその柱であり、特に IT はコールセンターや BPO といった労働集約型として期待されていました。社屋の提供、東京ならびに各都市とのインターネット回線の確保、そして若年人材層の紹介といった、およそ考えられるさまざまな施策を継続的に行い、目に見える実績を出してきたと思います。しかし、労働集約型はどうしても低賃金にならざるをえず、この改善は解決が難しいテーマでした。

ところで先日、2020年の沖縄県の企業誘致セミナーで、地元企業として話してほしいと打診がありました。お役に立てればという気持ちで受諾したのがこちらになります。

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このやりとりをとおして、気づいたことがあります。これまでは県外企業が仕事をもってきて、県内が労働力を提供するという構図でした。しかし今回の発表企業はそうではありません。「市場としての沖縄」「研究開発拠点としての沖縄」そして「沖縄から提案するビジネスモデル」と、新しい沖縄の可能性をアピールしようという意図を感じました。これは雇用の観点からいうと、量から質への転換を図ることにつながるはずです。

量から質を求めたときに変わること

実は労働集約型というのは、その受け皿となる企業にとっては経営リスクが少ないという特徴がありました。どこかで人が足りないといえば別のところが供給するという構図は、よくいえば相互扶助的ですが、結果として突出した企業を生み出すことはありません。

また雇用される側も、スキルをアピールすることに集中できました。選ばれる人材になるということです。

両者の共通点は「受けの姿勢」にあります。経営者も労働者も共に、雇用の創出ではなく、誰かが生み出した雇用の引受先になるという戦略です。

しかし時代は2020年。AIや(私が関わる)ローコード開発など、少ない人材でより多くの効果を得ようという流れが加速しています。求められる雇用の量が減少しつつある中でとるべき戦略は、自ら雇用を創出すること。その仕掛けとなるアイデアを生み出し、実行する企業の存在です。つまり「攻めの姿勢」への転換です。

質を追うとなった場合、そのような企業が沖縄にどのくらいあるか、ということが重要になります。アイデアと実行力をもった社長に沖縄で起業してもらうための魅力をアピールすることが必要です。(創業だけでなくグループ会社の設立なども可です。)

この戦略変更は、県内の既存企業にすぐ影響することはありません。既存企業の多くは県内シェアを持っているか、もしくは県外との商流をもっています。これはこのまま温存しつつ、新しいタイプの雇用を創出できる企業に沖縄で活躍してもらうということです。

これによって私は中長期的に県内人材の「心持ち」が変わってくることを期待しています。具体的には「横並びから、突出を是とする文化」と「選ばれる人材ではなく、自ら企業を選ぶ人材」へのシフトです。

突出を是とすると、社長のアイデアと実行力にかかってきます。企業の新陳代謝を促し、淘汰もされるでしょうが、その中から伸びる企業がでてくる可能性があります。

自ら企業を選ぶ人材とは、自分にしかできないことを武器に複数の企業と並行して契約するような雇用形態を目指すことです。例えば Excel が使えますというスキルアピールは、同じことができる、より安い人件費の人に容易にとってかわられます。一方、例えば2日程度である規模のシステムを開発します、という武器があれば、同時に複数企業と契約することで、なくてはならない人材として重宝されることでしょう。雇用される側のポイントは、一つの会社にべったりだと生殺与奪権を握られることを自覚し、少しずつ、複数の企業と関係をもつようにすることです。結果として失業リスクを減らし、自分の長所を生かすような人生を送ることができます。

この変化をとおして、長期的には県経済界の悲願である「補助金に依存しない、自立型経済」を達成することが目標になります。待ちの姿勢はどうしても補助金漬けになりやすい構図でしたが、攻めの姿勢はそうではありません。

まとめ

これまでの沖縄県経済は、労働者が本土並みの賃金を得ることを一つの目標にしてきました。県土が狭いため工場誘致は難しかったですが、観光やITは工場に変わる雇用の場として期待されてきました。しかし「追いつけ」という目標は、その目標としてきた本土自体が年々、実質賃金が目減りするという状況の中で、苦しくなっているのが現状です。

このタイミングで、沖縄の産業政策が(雇用の)量から質に変わるのは時宜を得ています。外部からみて「沖縄を拠点として活躍することは面白そうだ」と思ってもらえること、そして教育界を巻き込んで「沖縄が輩出する人材は余人を持って変えがたい」と思われるようなブランドを構築できれば、一歩先んじることができるはずです。

最後に、以上はあくまでも私の勝手な憶測です。現在のテクノロジと社会情勢を自分なりに解釈しつつ、今回、お声がけをいただけたというタイミングから、いろいろ考えを広げてみました。