「超高速開発コミュニティ」は何を目指すのか

超高速開発ツール(または手法)の普及活動を行う「超高速開発コミュニティ」がいよいよ立ち上がりました。
http://www.x-rad.jp/

記者会見の様子がさまざまなメディアに掲載されています。記事には触れられていませんが会場では記者との間に活発な議論があり、大いに盛り上がりました。厳しい質問を経て、次のような記事でまとめられています。記者の皆様、ありがとうございました。

「超高速開発コミュニティ」を設立――日本が19位で黙っているわけにはいかない
http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1308/06/news121.html

開発ツールベンダー13社が集結し、「超高速開発コミュニティ」を設立
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20130806/496983/

業務システムの開発ツール・ベンダー13社が 共同で「超高速開発コミュニティ」を旗揚げ
http://it.impressbm.co.jp/e/2013/08/06/5063

超高速開発はスクラッチ開発の3倍から10倍の開発効率が条件、競合するベンダ13社が利害を超えて「超高速開発コミュニティ」を設立
http://www.publickey1.jp/blog/13/31013.html

「超高速開発コミュニティ」設立―インフォテリア、ケンシステム、マジックソフトなどソフトウェア開発のツールベンダー13社が参加
http://enterprisezine.jp/article/detail/5041

開発支援ツール13社でコミュニティ設立
http://itkisyakai.org/bbs_detail.php?minihome_id=&bbs_num=262&tb=board_news&b_category=&minihome_id=&pg=1

競合関係を超えた意義で発足した「超高速開発コミュニティ」とは (2013.08.08 追記)
http://japan.zdnet.com/development/analysis/35035688/

「超高速開発コミュニティ」発足 - マジックソフトウェアら13社が参加 (2013.08.08 追記)
http://news.mynavi.jp/news/2013/08/07/156/index.html

マジックソフト、「超高速開発コミュニティ」に設立メンバーとして参加 (2013.08.08 追記)
http://biz.bcnranking.jp/article/news/1308/130808_134233.html


私は幹事の一人として、このコミュニティ設立の経緯や思いをここに記録しようと思います。

設立のきっかけ

きっかけは、さった4月16日に開催された「ユーザー事例に学ぶ超高速開発ツール」(主催:ICT経営パートナーズ協会)に遡ります。

会の終了後、懇親会の席で私はウィングの樋山社長に声をかけました。

"(本日の会で)改めて感じたのは、まだまだツールの認知度が低いということです。今は狭い市場を競合製品で奪い合うのではなく、ツールベンダーが一緒になって市場を拡大する時ではないでしょうか。"

これに樋山社長が "まさにそのとおり" と同意され、その場で参加企業5社による情報交換を継続することが決まりました。また今後の活動をどうするかについて樋山社長、USP研究所の當仲所長・吉田様と私で叩き台をつくることになりました。

この動きをICT経営パートナーズ協会の関会長にお話したところ大いに賛同され、コミュニティとして場をつくること、同コミュニティの会長を関様にお願いすること、といった体制が固まっていきます。

その後、設立趣意書などを作成する傍ら、各社それぞれで参加していただけそうな企業に打診し、立ち上げ時の参加企業の目標10社を超える、13社に加盟していただけることになった次第です。
記者会見も無事に終了したので、引き続き賛同いただけるベンダー企業に入っていただけるよう、声掛けを継続します。このようなツールを持っているという方、お声掛けください。(怪しそうなコミュニティなので、どうしようか迷っている、という方は個別に相談ください。)

開発ツールを利用するケースはまだまだ少ない?

記者会見の場で、現時点で(加盟企業13社の)市場シェアはどの程度か、という質問がありました。調査資料はないのですが、私の感覚では、全部あわせても1パーセントに満たないです。つまりエンタープライズアプリケーション開発はほとんど、手組みです。

当社を含め、このコミュニティの主旨に同意して参加した方々は、この点に危機感を持っています。ハードウェアの劇的な進歩に比べ、ソフトウェア、特にエンタープライズ分野の開発スタイルは1970年代から、もう40年以上、ほとんど変わっていません。相変わらず何百人月という数字が飛び交い、大量の開発要員を抱える必要があります。プロジェクトのコストに関する議論は工数の見直しではなく人月単価を下げることに終始しがちです。見積精度は曖昧で、発注側と開発側(SIer)はお互いの立場を守ろうと、神経戦で消耗します。この問題に技術的に立ち向かおうという人々は少なからず存在するのですが、いかんせん個々の企業の発信力には限界があります。結果として、開発ツールを利用するというのはまだ「キワモノ」扱いされているのが現状です。

この問題に対してはかなり古くから、ソフトウェアの自動生成やノンプログラミング開発というアプローチが提案されてきましたが、これも主流になることはありませんでした。"銀の弾丸はない。" の言葉どおり、高い生産性の実現の裏には、失うものがあると思われてきたためです。とはいえ、その正体を見極めず、他に選択肢はないとばかりに手組みの開発を続ける体制はすでに限界を超えて、無理があると考えています。それが個々のIT従事者の負担となって、エンタープライズアプリケーション開発から逃げ出す人が増えていることにつながっているのだとすれば、残念なことです。このままではいけない、何とかしたいという気持ちがあります。

コミュニティに参加した各ツールはそれぞれ特徴がありますが、共通していることが一つあります。なかなか理解してもらえない現状を認識しつつ、それでも必死になってユーザーの声を聞き、改善を重ねてきたことです。その過程で各社とも多くの成功事例が蓄積されています。ツールの向き不向きや、効果的に活用するポイントは何かといったことを営業文句ではなく、実績ベースで明らかにする時期にきています。ユーザー企業と開発者の双方が袋小路に入ってしまった感のあるエンタープライズアプリケーション開発に新風を起こせないだろうか、というのがこのコミュニティの願いです。

ユーザー企業や、SI企業に入ってもらうことが成功への試金石

準備会の議論でもっとも重視されたのは、コミュニティという位置づけにするということでした。加盟するツールベンダーにとって市場拡大は重要な目的ですが、これを単なる営業の会にしてしまうと独善的で、支持されないだろうという意見が重視されました。内製化を指向するユーザー企業や、新しいSIを模索する開発系企業を巻き込み、当コミュニティへの参加がメリットに結びつくようにするためにはどうすればいいでしょうか。

今、計画しているのは各ツールの得意分野を明らかにし、ツール選択のためのわかりやすい基準を提案することです。あわせてツールの成功事例、制約事項といった情報を入手しやすい環境をつくり、「情報が少なくてよくわからない」という印象を変えていくことです。良い話だけではないでしょう。超高速というスピードと引き換えに、何を失うのかというトレードオフも各ツール毎に違うはずです。それも可能な限り明らかにした上で、それでも開発スピードを重視することが、自社の経営戦略にプラスかマイナスかという経営視点からの議論につなげられればと願っています。各ツールの差が明らかになれば、製品ベンダー間では、その差を埋めようという競争力が働きます。それは結果的に関係者全員にとってメリットになります。

そして他のコミュニティとの連携もまた重要なテーマです。例えば開発ツールと、開発方法は組み合わせることができます。要求開発やアジャイル的アプローチと組み合わせることで、何倍も効果を出せる可能性があります。DevOpsやクラウドとの相性もあるでしょう。ユーザー主導開発(内製)に開発ツールがどこまで有効かを議論できればとも思います。

「開発をよりよくしていきたい」という、IT従事者にとって共通のゴールに向かって、多くの人が違った切り口で改善活動を実践しています。私たちはこのコミュニティを通して「開発ツールのより効果的な活用」という切り口から、同じ問題に取り組もうとしています。そういうツールもあるのか、ということを知ってもらうのはIT従事者の選択肢を増やすという視点からも意味があります。

ムーブメントを起こせるのか

「市場を自分たちでつくっていく」、このような経験に携われる機会を頂けたということに、改めて感謝しています。また、この活動を私よりもはるかに経験のある諸先輩方と一緒にやっていけるということも、嬉しく思います。と同時に、これまで以上の批判を受け止める覚悟もまた、求められていると感じています。

記者会見の場でも、鋭い指摘がありました。(記事中にも触れられています。)また、TwitterなどのSNSでは、このコミュニティに対する期待よりも、厳しいコメントの方が目につきます。改めて感じるのは、よくわからないものに対する過度の期待、恐れ、不安が交錯しているということです。これは情報不足によって生じる現象であり、またベンダーによる "何でもできます。欠点はありません。" というような台詞は逆効果になるということでもあります。超高速開発とはどういうもので、何が得意で、どこに不向きなのか、どこが採用して、どういう成功事例と失敗事例があるのか。このような内容をコミュニティとして発信できるかどうかが、受け入れられるかどうかのポイントになると考えています。

開発ツールをもっとうまく活用する、というムーブメントを一過性ではなく、今後のエンタープライズアプリケーション開発の主流として認知していただくことができるのか。それに対する一つのアプローチは、コストダウンを示せるかどうかです。

歴史を振り返れば、エンタープライズアプリケーション再構築のタイミングは、大幅なコストダウン手法の登場が契機でした。汎用機やオフコンからUNIXやPCサーバを使う流れは「ダウンサイジング」「オープン化」と呼ばれましたが、このときはハードウェア価格が下がりました。今はクラウドや仮想化で、やはりインフラコストが下がっています。ではソフトウェアの開発コストにブレークスルーはないのか。従来型のスクラッチ開発(オフショア活用を含む)ではなく超高速開発ツールの利用がコスト削減に貢献することが明らかになれば、ムーブメントを起こすことはできると考えています。

個人的には超高速開発が最終的な答えだ、と発言したことはありません。しかし多くの開発現場で、使い道はある、と考えています。

私たちにとってのコミュニティ活動

当社は、集まった会社の中ではもっとも新参者である、ということを肝に命じないといけません。大言壮語ではなく、信頼できる製品へと磨き上げること。お客様の声を反映させること。これまでもやってきたつもりとはいえ、まだまだ足りないところがあると自覚しています。このコミュニティに立ち上げ時から参加できたことを誇りに思いつつ、それに恥じない製品をつくりあげる、そういう気持ちを持ち続ける動機付けになるのが、当社にとってのコミュニティ活動の意義です。

補足

"超高速開発" という言葉を最初に知ったのは日経コンピュータ2012年3月15日号特集でした。この言葉が1年半を経て、コミュニティの名前になりました。この言葉の生みの親である日経コンピュータ記者、編集の皆様に改めて感謝申し上げます。また、この言葉を使わせていただく以上、名前負けしないコミュニティにしたいと思います。